ICT分析:ICTの価格設計原理
価格設計原理(IPDA)とは?
IPDA(Interbank Price Delivery Algorithm / インターバンク価格配信アルゴリズム) は、市場で価格がどのように動かされているかを見極めるためのロジック(考え方)や概念モデルを指します。ここで大事なのは、IPDAは実際に存在する特定のプログラムや物理的なプロトコルではなく、ICT理論(Inner Circle Trader)の中で使われる価格設計の原理を説明するためのフレームワークであるという点です。
- 基本的な考え方
- ICTによると、市場は完全なランダムで動いているのではなく、一定のルールや秩序に従って価格が動かされています。
- そのルールは大口投資家(銀行や機関投資家などのスマートマネー)によって形成されるため、彼らの意図や動きを理解することが、IPDAの中核になります。
- IPDAの視点を持つことで、チャート上の見せかけのランダム性に惑わされず、なぜその価格帯に向かったのかを理解できるようになります。
- トレーダーにとっての意味
IPDAを理解することで、単なる過去のチャートパターンの記憶に頼るのではなく、価格の背後にある設計思想(意図)を読み取れるようになります。その結果、より精度の高い予測と、リスク管理に基づいた合理的なトレードが可能になります。
価格の裏にあるルールを読み解くための考え方
エクスパンション(EXPANSION)
IPDAにおけるExpansionとは、価格が均衡価格(市場の適正価格帯)から大きく外れて、強い方向性を持った動きが生じる局面を指します。
- Expansionの特徴
- 価格が大きく動くとき、チャート上には必ず痕跡(マーケットの設計跡)が残ります。その代表的なものがフェアバリュー・ギャップやリクイディティ・ボイドなどの価格の非効率性が見られる場所となって現れます。
- これらが出現したときは、単なる偶然の動きではなく、スマートマネー(大口投資家)が意図的に市場を拡張させたサインと考えられることができます。
ブレイクアウトとは別の考え方
- ICTにおけるExpansionの解釈
- リクイディティの吸収
強い動きの裏では、逆方向に仕掛けていたトレーダーのストップ注文などが狩られ、大口がそれをリクイディティとして吸収します。
- 価格の再形成
吸収が完了すると、市場は新しい基準点に沿って再び設計されていきます。
- オーダーブロック(OB)の出現
Expansionの後は、均衡価格付近(特にフィボナッチ50%付近)に新しいオーダーブロックが見つかりやすい傾向があります。これは大口が仕掛けた証拠となり、次の取引判断の基準となります。
OBとフィボナッチ50%付近
リトレースメント(RETRACEMENT)
IPDAにおけるRetracementとは、価格が一度大きく動いたあとに、前回のレンジ(均衡帯)や重要な価格帯へ戻ってくる動きを指します。
- Retracementの特徴
- 強いExpansionが起こると、チャート上にフェアバリュー・ギャップやリクイディティ・ボイドなどの非効率性の痕跡が残ります。
- Retracementは単独ではなく、必ずExpansionの後に起きる補完動作です。その価格の非効率を埋めるために価格が再び戻ってくる調整の動きがあります。
- これは市場が新しいバランスを取り直す過程と考えることができます。
市場が新しいバランスを取り直す過程と考える
- ICTにおけるRetracementの解釈
- 市場のバランス
これは単なる戻りではなく、スマートマネーがポジションを構築したり、リクイディティを確保したりするための戦略的プロセスとして理解されます。
- 小口のエントリー機械
この戻りによって、新しいオーダーブロックや有効なサポート・レジスタンスラインが形成されることが多く、トレーダーにとって次のエントリー機会を示す重要なサインとなります。
非効率解消と大口の仕込みの動き
リバーサル(REVERSAL)
IPDAにおけるReversalとは、それまで続いていたトレンドが徐々に解消され、反対方向に新しいトレンドが形成されていく動きを指します。
- Reversalの基本的な特徴
- トレンドが反転する際には、必ずリクイディティが取り込まれます。これは、前のトレンドを信じていたトレーダーのストップ注文(Buy Stop・Sell Stop)が吸収されることで起こります。
- リクイディティを吸収した後に、スマートマネーが新しい方向にポジションを構築し、その意図的な仕掛けによってReversalが発生します。
スマートマネーによる意図的な逆ポジションの構築
- ICTにおけるReversalの解釈
- リクイディティの吸収
価格がPremium Array(割高領域)またはDiscount Array(割安領域)に到達したとき、Reversalが起こる可能性が高まります。
- リクイディティ・プール
直近の高値・安値付近にあるストップ注文を取り込み、そこから方向転換するのは典型的なReversalのシナリオです。
- 時間帯(セッション)
ロンドンオープンやニューヨークオープンなど、主要市場のオープン時間に合わせてReversalが発生しやすい傾向があります。これはコンフルエンス(複数の条件の一致)として重要視されます。
スマートマネーによる方向性を作り直す仕掛け
コンソリデーション(CONSOLODATION)
IPDAにおけるConsolidationとは、価格が一定の範囲(レンジ)の中を行き来しており、新しい高値や安値を更新せずに停滞している状態を指します。
- Consolidationの基本的な特徴
- 市場が方向感を失い、価格が同じゾーンで繰り返し推移します。
- これは次のExpansionに備えてエネルギーを溜めている状態とも言えます。
- Consolidationの上下には、多くの未決済注文(ストップ注文・逆指値など)が溜まりやすいため、それが後にスマートマネーのターゲットとなります。
既存レンジ内で停滞している状態
- ICTにおけるConsolidationの解釈
- 罠の仕込み場所
Consolidationはただの小休止ではなく、スマートマネーがポジションを構築し、一般トレーダーを罠にかけるための仕込みの場として認識されます。
- 見せかけブレイクや騙し反転
特に、見かけ上のブレイクアウトやだましの反転は、このレンジ内でよく発生し、リクイディティを誘導するための戦略的な動きがあります。
停滞ではなく、仕込みと準備の段階
マニピュレーション(MANIPULATION)
IPDAにおけるManipulationとは、市場の中で意図的に仕掛けられる騙しの動きやリクイディティの誘導を指します。
- Manipulationの基本的な仕組み
- 市場には常に、売り手と買い手の未約定注文(逆指値やストップ注文)が特定の価格帯に溜まっていることを想定しています。
- これをリクイディティと呼びます。
- 価格がそのレベルに近づくと、ストップ注文が一斉に約定され、スマートマネーはそれを利用して大きなポジションを構築・決済することができます。
未約定注文のたまり場
- ICTにおけるManipulationの解釈
- レンジの上下に溜まったリクイディティを狩る
一時的に価格を上下に振り、スマートマネーのストップを誘発します。
- リクイディティを吸収し、スマートマネーがポジションを構築
リーテイラーの損失はスマートマネーの利益になる構造となります。
- 価格は再び元のマーケットレンジに戻る
この誘導から元に戻る動きを Manipulation(またはInducement)と呼びます。
リクイディティを利用して仕掛ける設計
ICT分析:大口投資家とリクイディティ
大口投資家と小口投資家
スマートマネーと個人投資家の関係は、価格設計を理解する上で重要なテーマです。
- リーテイラー(小口投資)
- 多くのリーテイラーは、インジケーターを使って取引しています。
- インジケーターのシグナルは後追い的であることが多く、価格の本質的な動きよりも、判断やエントリーが遅れがちになる傾向があります。
- そのため、リーテイラーは間違った方向に仕掛けてしまったり、ストップに引っかかりやすかったりという特徴があり、結果として リクイディティの一部となってしまう可能性が高いということになります。
インジゲーターの動きにつられる
- スマートマネー(大口投資)
- 一方で、銀行や機関投資家などのスマートマネーは、市場のリクイディティを利用して効率よく取引を行っています。
- 彼らはリーテイラーが置いたストップ注文や逆指値注文をリクイディティとして利用し、価格を一時的に誘導してポジションを構築・決済します。
- ICT理論の前提は価格はスマートマネーの決済効率を高めるために設計されているという考え方に基づいています。
価格を誘導して決済
マニピュレーションの原理(イメージ)
IPDAにおけるManipulation(マニピュレーション)とは、大口投資家(スマートマネー)が本命の売買を行う前に、市場に存在する小口投資家(個人投資家)の未約定注文を意図的に狩り取り、リクイディティを確保するための動きです。
- マニピュレーションの原理の流れ
- 大口投資家の本命注文の準備
大口投資家が97円で大量に買いたいと考えても、その水準に十分な売り注文(リクイディティ)がなければ約定できません。
- 逆方向の動きを利用したリクイディティの確保
そのため、スマートマネーは一時的に逆の方向に売買を仕掛けます。こうして価格を意図的に動かすことで、97円に近い水準に個人投資家のストップ注文(売り)を引き出すような価格設計をします。
- リクイディティの吸収と本命注文の執行
個人投資家の注文が消化された後、十分なリクイディティが供給されると、スマートマネーは本命の大口注文を効率的に執行できるようになります。
ICTではInducement(誘導)とも呼びます。見かけ上は騙しの動きに見えますが、実際には大口が本命注文を成立させるための仕組みです。価格が一時的に逆方向へ振れるのは、単なるノイズではなく意図的にリクイディティを吸収するプロセスであるということを理解する必要があります。
意図的にリクイディティを吸収する仕組み
ICT分析:リクイディティの種類
リクイディティ・ランとスイープ
Liquidity Run(リクイディティ・ラン)およびLiquidity Sweep(リクイディティ・スイープ)は、市場に蓄積されたストップロス注文やブレイクアウト注文といったリクイディティを、スマートマネーが意図的に吸収するために起こす現象です。
- リクイディティ・ランとスイープの基本的な考え方
- 市場の高値や安値の周辺には、多くの注文が溜まっています。
- スマートマネーはそれを燃料(リクイディティ)として利用するため、価格を一時的に急変させて注文を刈り取り、効率よくポジションを構築・決済します。
- リクイディティ・ラン(Liquidity Run)
- 単発的なリクイディティへの急襲と捉えます。
- 直近の高値や安値を一気に突き抜けて、そこに溜まったストップ注文を一掃する動きが一般的にみられることが多いです。
- 目的はそのレベルにある注文を吸収することにあり、その後は反対方向へ反転する可能性が高いことで知られています。
- リクイディティ・スイープ(Liquidity Sweep)
- 広範囲のリクイディティへの掃除と捉えます。
- 単一の高値や安値だけでなく、複数のリクイディティゾーン(例:連続するスイング高値・安値)をまとめて狙う動きがよくみられます。
- より大きなリクイディティを確保するために、市場を広く走り抜けるような値動きになり、見た目はリクイディティ・ランと変わりませんが、POIを活用して、事前に狩られやすいポイントを見つけることが重要です。
- リクイディティ・ラン:ブレイクアウト(FVG・VOID)
- リクイディティ・スイープ:フェイクブレイクアウト(MANIPULATION)
内的・外的リクイディティ
- 外的リクイディティ(ブレイクアウト狙い・スイープ狙い)
外的リクイディティ(External Liquidity)とは、主にストップロス注文やブレイクアウト注文といったチャート外側に蓄積したリクイディティを指します。これは、トレンドの高値や安値、あるいは直近のレンジの外側に集まりやすい性質があります。
- 外的リクイディティの分類
- バイサイド・リクイディティ(Buy-side Liquidity)
ロングポジションを持つ投資家のストップ売り注文が並んでいる場所です。通常は直近の安値の下に集中しています。
- セルサイド・リクイディティ(Sell-side Liquidity)
ロングポジションを持つ投資家のショートポジションを持つ投資家のストップ買い注文が並んでいる場所です。通常は直近の高値の上に集中しています。
- リクイディティ・ハント(Liquidity Hunt)
スマートマネーがストップを刈り取るために価格を急襲させる動きです。ICTではリクイディティを燃料として吸収し、大口がポジションを構築するプロセスとして解釈されます。見かけ上は騙しのブレイクアウトに見えることが多いですが、実際にはスマートマネーの計画的な動きとして認識されます。
- 低抵抗スイープ(Low-Resistance Sweep)
リクイディティゾーンに到達するまでに、妨げとなる障害(フェアバリュー・ギャップやオーダーブロックなど)が少ない場合に、価格はスムーズにそのゾーンまで走りやすいとされています。
- 高抵抗スイープ(High-Resistance Sweep)
リクイディティゾーンに向かうまでに、途中で抵抗帯や対抗する大口の仕掛けがある場合に、到達までに時間がかり、途中で反発が生じやすいです。
- バイサイド・リクイディティ:ロング勢のストップが並んでいる場所
- セルサイド・リクイディティ:ショート勢のストップが並んでいる場所
- リクイディティ・ハント:ストップを刈ってスマートマネーが入ること
- 低抵抗・高抵抗スイープ:リクイディティゾーンまで障害がないか・あるか
- 内的リクイディティ(修正・調整狙い)
内的リクイディティ(Internal Liquidity)とは、相場の内部に残された価格の歪みや不均衡(非効率)を解消するために、価格が再び戻ってきやすいゾーンのことを指します。これは、修正や調整を目的とした値動きとして理解できます。
- 内的リクイディティを構成する代表例
- リクイディティ・ボイド(Liquidity Void)
過去に急騰や急落した結果、値動きがスカスカで取引が成立していないゾーン。後に価格が戻って空白を埋める動きが発生しやすい。
- フェアバリュー・ギャップ(Fair Value Gap)
急激な値動きによってローソク足が連続せず、公平価格との乖離(ギャップ)が生じた部分。市場は効率性を回復するので、そのギャップを埋める傾向がある。
- オーダーブロック(Order Block)
過去にスマートマネーが仕掛けを行った重要なローソク足のゾーン。その価格帯は再び注文が集まりやすく、サポートやレジスタンスとして機能する。
- リクイディティ・ボイド:過去の急騰・急落ゾーンが滑らかに戻されるゾーン
- フェアバリュー・ギャップ:公平価格との差を埋めにくる戻り現象
- オーダーブロック:過去に機能したOBに再び注文が集まる場所
ICT分析:リクイディティバイアス
シナリオ別リクイディティバイアス
- ブリッシュバイアス
- 月足(Monthly):上目線
- 週足(Weekly):上目線
- 日足(Daily):上目線
4時間足以下の短期足では、一時的に下落(戻り・調整)する動きが出やすいです。つまり、一度ディスカウントへ戻し、下のリクイディティ(売りストップ)を狙った後に、売り圧力が入りやすいです。これらは、すべて抵抗が少なくリクイディティが集まりやすいポイントであり、直近高値の上をターゲットにロングを狙うことができます。
- エントリーポイントの例
- プロテクティブ・セルストップ狩り(Protective Sell Stop Raid)
- ブリッシュ・オーダーブロックへのリターン
- フェアバリュー・ギャップ(FVG)の埋め戻し
- リクイディティ・ボイド(Liquidity Void)の埋め戻し
- ベアリッシュバイアス
- 月足(Monthly):下目線
- 週足(Weekly):下目線
- 日足(Daily):下目線
4時間足以下の短期足では、一時的に上昇(戻り・調整)する動きが出やすいです。つまり、一度プレミアムへ戻し、上のリクイディティ(買いストップ)を狙った後に、売り圧力が入りやすいです。これらは、すべて抵抗が少なくリクイディティが集まりやすいポイントであり、直近安値の下をターゲットにショートを狙うことができます。
- エントリーポイントの例
- プロテクティブ・バイストップ狩り(Protective Buy Stop Raid)
- ベアリッシュ・オーダーブロックへのリターン
- フェアバリュー・ギャップ(FVG)の埋め戻し
- リクイディティ・ボイド(Liquidity Void)の埋め戻し
ICT分析:リクイディティを使ったトレード戦略
Liquidity Sweepトレード戦略
今の市場価格よりも高値・安値の上下には、多くのロング・ショートトレーダーの損切り注文があります。また、ブレイクアウトで売買したい人も、Buy Stop・Sell Stopを置いています。ポイントは高値・安値の下は売買注文の地雷原になっていることです。
- 有効化の条件(Validation)
その高値・安値がブレイクされると、Buy Stop・Sell Stop成り行き注文になります。つまり、一気に買い・売りのリクイディティが市場に注入されることがポイントです。
- エントリー技法(Entry Techniques)
もし相場のバイアスが全体的にわかっているのなら、その高値・安値のちょっと上下に指値買い・売りを置くことで、高値・安値をわざと抜けさせて、その売買を全部吸い取るように売買することができます。これは銀行などがやる手口と同じやり方です。ポイントは、一瞬のダマシ下げで安く買う・高く売るということです。
- リスク管理(Defining Risk)
この売買は、高値・安値の上下で10Pipsから20pipsで揺れることが多く、そのため30Pipsから50pipsの損切幅が理想的(かなりのリスク管理が必要)です。